わんころけっとのアメリカに暮らしてみたものの

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「あっ、それセクハラですよ」アメリカにおけるセクハラ・ケーススタディー

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アメリカは意外(?)にもセクハラ大国。年1回のセクハラ講習は全員参加。

大物ハリウッド映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインへのセクハラ告発から発展したMeToo運動。自由と平等の国アメリカは、意外にもセクハラ大国でもあります。ニューヨーク市では、すべての企業に対し年1回の全社員参加のセクハラ講習の実施を課しており、セクハラ行為をしないといった内容の誓約書を従業員に書かせます。私の務めるオフィスでもセクハラ講習がありました。

まず従業員は管理職と非管理職に別れ、さらに6人〜8人程度の小グループに別れます。そのグループでセッションを行いますが、従業員以外に人事部のスタッフとセクハラ専門の弁護士が参加しワークショップ形式で講習を受けます。

特に男性は、頭で分かるルールと感情にズレがあることが多いかも。

以下、セクハラに関する、よくある事例と、その行為がセクハラに当たるかどうかの回答例を紹介します。みなさんはどう考えますか?頭で分かっていることと、感情で思うことにズレがあったりしませんか?「いや、そうなのかもしれないけど、それだと、オフィスが息苦しくないですか?」「それだと、もう何も話せないじゃないですか」といった感想を持つかもしれませんね。実際の事例は、以下のケースよりも複雑な背景があったりしますし、人事専門家でも弁護士でもない私は事例を紹介することしかできませんが、セクハラを考える、ちょっとした手がかりとなれば幸いです。友達と以下の事例について、どう感じるか意見を交換してみると、その人の価値観が分かったりして面白いかもしれません。

ケース(1):デートのお誘い

ケース(1):太郎さんは最近離婚したばかり。孤独を感じているようで、ちょくちょく新しい恋人が欲しい、といった内容の発言を職場でもしています。花子さんは太郎さんの職場の同僚で、それなりに友好的な関係を築いており、お昼休憩に外ランチをともにすることもあります。そんなある日、太郎さんは花子さんを映画デートに誘いました。花子さんも太郎さんのことは好意的に思っているので、一緒に出かけることに同意します。花子さんは、太郎さんとの外出を楽しみましたが、それ以上の関係に発展させるのは難しいと感じました。花子さんは太郎さんに楽しい時間を過ごせたことを感謝しますが、それ以上の関係に発展させることは望んでいないと説明します。その後、太郎さんからのアプローチはありませんでしたが、2週間ほど経ったころから、また太郎さんからデートのお誘いが入るようになりました。花子さんは、その都度、断りましたが、太郎さんは諦めず、何度もデートの誘いを持ちかけてきます。

質問1:太郎さんが花子さんを最初にデートに誘った行為は、セクハラに当たるでしょうか?

回答:恋人を探し、同僚の花子さんをデートに誘った太郎さんの最初の行動はセクハラにはあたりません。花子さんが最初のデートのお誘いを断ったとしても、太郎さんがデートに誘う行為自体は問題ありません。また太郎さんの恋人が欲しいとの発言も、私生活に関連する性的な意味合いを含んだ発言を行っていないのであれば問題ありません。

質問2:花子さんは、太郎さんとデートすることに同意した経緯があるので、太郎さんからの、その後のお誘いに関して、不満を言うことはできないのでしょうか?

回答:いいえ、花子さんは上司に不満を伝えることができます。友好的な関係であったとしても、デートをしたことがあったとしても、仮に以前、2人に親密な交際歴があったとしても、職場の同僚に対して、太郎さんが花子さんにとったような行動(しつこくデートに誘う)を取ることが正当化されることはありません。花子さんは太郎さんと一緒に働き続ける必要があり、太郎さんは花子さんの希望を尊重し、職場での不適切な行動を慎まなくてはなりません。

ケース(2):形を変えたお誘いが継続される

ケース(2):花子さんは職場の上司に問題を報告し、上司は人事担当者に花子さんの問題を報告しました。太郎さんは、彼の行動について人事部から事情を聴取され謝罪します。人事部から問題行動を止めるように言われた太郎さんは、しばらく大人しくしていますが、その後、自分の気持ちを記したメモを添付した、ささやかなプレゼントを花子さんの机に置き始めました。メモは花子さんを攻撃する内容や過激な文言は含まれていませんでしたが、太郎さんの行動は花子さんを悩ませました。

質問3:太郎さんは人事部に指示された通り、花子さんをデートに誘うことを辞めました。ただ花子さんに好意を持つ太郎さんは、花子さんに良くしたいとの考えからメモ付きの贈り物を渡すことにしたようですが、この太郎さんの行動はセクハラにあたりますか?

回答:セクハラにあたります。花子さんは太郎さんの行動を上司に報告する必要があります。花子さんは、太郎さんに職場での不適切な行動を止めさせるための効果的な支援を受ける権利があります。太郎さんは、花子さんへの不適切なアプローチを止めるように言われた後、花子さんを困らせる行動を再びとったことから、深刻な懲戒処分を受ける可能性があります。

セクハラ問題は人事部に委ねるべきか?

最後は厳しい状況になってしまいました。私がセクハラ講習を受けたときに似たようなケースを扱ったことがあります。そのケースでは、セクハラ(と考えられる)行為を受けた女性は、上司ではなく、一足飛びに人事に報告します。そのことに関して弁護士から

質問4:人事に直接問題を報告した女性の行動は正しいと言えるか?

と聞かれた私は、「一足飛びに人事、はきついのでは」「まずは直属の上司に相談し、上司から注意してもらう」「あるいは、上司を交えてミーティングを行う」が良いのではないか、と回答しましたが、弁護士の回答は以下の通りでした。

回答:いいえ、セクハラのケースは上司ではなく人事に報告すべきです。上司が報告を受けた場合は、問題に介入するのではなく、また自分たちのチーム内で解決しようとするのではなく、人事に問題を委ねるべきです。

とのことでした。「ケースの深刻さ具合も関係あるのではないか」と発言してみましたが、基本、「セクハラがあった」と申告があった時点で、事実関係の調査から対応まで、人事に委ねるべきだと言われました。そして人事は、専門の弁護士と連携し対応にあたるべし、とのことでした。皆さんはいかが感じましたか?

 

注)同ブログの著者は人事専門家でも専門分野の弁護士でもありません。上述したケースは、あくまで素材として広く出回ってる事例をもとに記述しています。個々のセクハラ行為や迷惑行為に関しましては、直接、個々の責任において、専門の弁護士にご相談ください。