わんころけっとのアメリカに暮らしてみたものの

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いや、それは当然、セクハラです。上司の口利きと見返り。

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今回もアメリカの職場で行われるセクハラ講習から、ケーススタディーとしての事例を紹介します。私は人事担当者でも弁護士でもありませんので、講習で取り上げられた事例を紹介することしかできませんが、なんらかの参考となれば幸いです。今回のケースは、ちょっと気持ちが滅入ってくる事例です。

ケーススタディー:上司の口利きと対価の要求

ケース:配置転換にともない空席となっていた地域スーパーバイザーのポジションに関して、会社が意欲のある社員を社内公募する計画があることを知った花子さんは、以前から同ポジションに興味を持っていたこともあり、昇進をともなう同ポジションへの応募に意欲を持っています。

また花子さんは、同ポジションの社内選考に現在の上司である太郎さんが関わっていることも知っています。花子さんは太郎さんに同ポジションに応募するつもりであることを話します。太郎さんからは「どうだろうね、良いと思うけれど、そのポジションに興味を持っている社員は他にも沢山いるから」と返答されました。

その1週間後、花子さんと太郎さんは業界のカンファレンスに出席するため、1泊2日の出張にでかけます。夕食時、太郎さんが花子さんに、「(太郎さんは)これまで花子さんと仕事をしてきて、とても前向きな印象を持っているので、できれば花子さんの昇進を応援したい」と言いました。太郎さんは「他の候補も履歴書を見る限りかなり良いスタッフが応募してきているが、太郎さんの考える一番の候補は花子さんだ」と伝え「昇進できるように話を持っていくことは可能かもしれない」と話します。花子さんは太郎さんに感謝します。そういった会話のあと、太郎さんは「ホテルの私の部屋でもう少し飲まないか」と誘ってきました。しかし花子さんは、その申し出を断ります。

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質問1. 太郎さんの行動は花子さんへのハラスメントと判断される可能性があるでしょうか?

回答:はい、あります。花子さんの上司として、太郎さんの行動は不適切であり、花子さんが太郎さんの行動が不快だと感じたのなら、太郎さんの上司、あるいは人事部に報告することは全く問題ありません。今回の太郎さんの行動が、職場以外の場所(今回は出張先)で行われたかどうかは関係ありません。2人の関係は上司と部下であり、彼らのやり取りは職場に影響を与える可能性があります。

Quid Pro Quo(代償的セクシャルハラスメント

この時点では、太郎さんは花子さんが誘いを断った場合に「昇進について彼女の不利となるような行動を取るといった脅迫」は行っていませんので、太郎さんの行動は、代償的セクシャル・ハラスメントアメリカではQuid Pro Quo Harassmentと呼びます)とみなされる場合もありますが、みなされない可能性もあります。

しかし太郎さんの「昇進できるように、話を持っていくことは可能かも」という提案に続いて、太郎さんが行ったホテルの部屋で飲もうという提案は、潜在的に強制的であると考えられるかもしれません。仮に太郎さんが昇進に関する脅迫、あるいは約束を全く口にしなかったとしても、太郎さんが花子さんを誘い出すことに固執した場合、花子さんに不利益な状況を生み出す可能性があります。太郎さんは管理職であるため、会社としては厳格に対応する必要があります。

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質問2:太郎さんは代償的セクシャル・ハラスメントを行ったと言えるか?

ケース(継続):出張から戻った後、花子さんは新しいポジションの公募への準備をしたいと考え、太郎さんに公募がいつ始まるか訪ねます。太郎さんは「(公募開始がいつかは)まだ決まっていないが、太郎さんに後押ししてもらうために、花子さんが太郎さんに何らかの好意を示す時間はまだある」と言い、「金曜にディナーに出かけて、その後、私のところに来ませんか?」と伝えます。

質問2:この時点で、太郎さんは花子さんに対して、代償的セクシャル・ハラスメントを行ったと言えるでしょうか?

回答:言えます。太郎さんが花子さんを支援する見返りとして、不適切な交際を求めたことは明らかです。

質問3:自発的に要求に応じた花子さんはハラスメントとして訴えることはできない?

ケース(継続):花子さんは同ポジションを切望していたため、太郎さんの要求に応じることにしました。しかし、花子さんには太郎さんと交際する意思は全くなく、そうしないと太郎さんが花子さんの出世の望みを妨害すると考えたため、やむなく、そうした行動をとりました

質問3:花子さんは、自発的に太郎さんとの交際に応じたため、太郎さんの行為をハラスメントとして訴えることはできない、との言い分は正しいと言えるか?

回答:いいえ、誤りです。こうした関係を持つことを花子さんは望んでおらず、花子さんはセクハラの被害者と言えます。同じく、もし花子さんが太郎さんの申し出を拒否していたとしても、花子さんは太郎さんのセクハラの被害者と言えます。

職場で人事権や決定権などの裁量を持つ人物による、職場での待遇などへの交換条件として、交際を求める行為は、代償的セクシャル・ハラスメント(Quid Pro Quo Harassment)となります。会社は管理職である太郎さんの行為の責任を問われます

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質問4:望んでいたポジションを得たのでセクハラを訴えることはできない?

ケース(継続):花子さんは、昇進し地域スーパーバイザーのポジションを得ることができました。

質問4:花子さんは望んでいたポジションを得たのでセクハラを訴えることはできない、との言い分は正しいと言えるか?

回答:いいえ、花子さんがセクハラを受ける要因となった職業上の優遇を受けていても、いなくても、花子さんはセクハラの被害者と言えます

質問5:優遇を得られなくなったからと言ってセクハラを訴えることはできない?

ケース(継続):花子さんは、太郎さんとの関係を断ち切りますが、その後、太郎さんは花子さんの仕事ぶりに低い評価を与え始めます。その結果、同ポジションでの試用期間であった花子さんは、不適格との評価を与えられ、同ポジションを外され元の職場へと戻されます

質問5:今となっては、花子さんがセクハラを訴えるのは遅すぎる。自発的に行った行為を破棄したために、優遇を得られなくなったからと言って、セクハラを訴えることはできません、との言い分は正しいか?

回答:お互いに好意があって成立した関係が破綻したとしても、それはセクハラには該当しません。しかしながら、本件における関係は、つねに花子さんが望んだものではありません。太郎さんの、この間の行動は常に不適切であり、会社の就業規則に重大な違反をしていると言えます。管理職の立場と権限を乱用した人物として、太郎さんはセクハラを行ったと言えます。

今回は非常に気の重くなるケーススタディでしたね。太郎さんの言動が冒頭の段階からセクハラにあたるものであったことに異論を持つ人はいないのではないでしょうか。

 

 注)同ブログの著者は人事専門家でも専門分野の弁護士でもありません。上述したケースは、あくまで素材として広く出回ってる事例をもとに記述しています。個々のセクハラ行為や迷惑行為に関しましては、直接、個々の責任において、人事専門家や専門の弁護士にご相談ください。

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