- 市長の希望はリモートと通学の混合による9月10日からの学校再開
- 学校職員は教育省の準備不足や遅れ、待遇に不満
- 主だった質問は以下の通りです。
- 段階的な学校再開を提案する折衷案も
- 学校再開に向けた議論は混乱が続く
市長の希望はリモートと通学の混合による9月10日からの学校再開
およそ1800の学校に110万人の児童・生徒が通う、全米最大規模の学校区を持つニューヨーク市ですが、デブラシオ市長とNY市教育省(DOE)は、9月10日の学校再開を主張しています。しかし、その決定に黄色信号が灯り始めています。DOEの計画では、児童・生徒を2つ程度のグループに分けて、週2日程度学校に通い、残りの日はリモート教育を受ける「通学とリモートの混合授業」か、1週間すべてリモート教育とする「完全リモート授業」かの、2つの選択肢を保護者に与えることで、9月10日から学校を再開する計画でした。デブラシオ市長は、やや慎重姿勢を示し始めたものの、「75%の保護者が9月からの学校再開を望んでいる」との統計を示し、保護者らの学校再開への期待は明らかだとしました。
学校職員は教育省の準備不足や遅れ、待遇に不満
しかし学校の校長らで組織する校長組合は、DOEの準備不足と準備の遅れを指摘し、9月再開の可能性は「日々、小さくなっている」と主張しています。また教育者組合が行ったリサーチでは「9月からの学校再開を望む保護者は25%に過ぎない」との報告もあります。そして校長組合ではDOEに、学校再開に向け、学校指導者が直面している問題と危機に関する141項目の質問状を送付しました。質問状は安全と衛生に関する基本的な質問が多く含まれています。
主だった質問は以下の通りです。
- すべての学校に看護師は滞在するのか?
- 誰が毎日の検温を行うのか?
- PPE(Personal Protective Eequipment-マスク、フェイスガード、指先消毒液、石鹸などの感染防止に必要な資材)はいつ学校に供給されるのか?
- 感染の症状が見られる児童・生徒がいた場合に隔離する部屋の運営を誰が担当するのか?
- 生徒感で喧嘩などが発生した場合、どのように対処すべきか?
- 他の生徒に、わざとくしゃみや咳をする児童や生徒をどのように躾けるべきか?
- 感染防止策が守られていない恐れや、ケースを発見した場合、どう対処すべきか?
- 教師が陽性と診断された場合、受け持ちの児童・生徒は隔離されなければならないのか?
- 2つの学校が同じ校舎を共有している場合、片方の学校が閉鎖された場合、もう片方の学校も閉鎖されないといけないのか?
- 学校に十分な除染・感染防止作業のための道具や薬剤がない場合は、どうしたらいいのか?
- 職員、あるいは生徒がマスク等の装着を拒否したら、どう対処すべきか?
- あるクラスで陽性者がでて、そのクラスが2週間の自宅待機となった場合、他のクラスの生徒たちに濃厚接触者がいなかったか確認すべきか?
- 兄弟に感染者が出た場合、その兄弟たちは自宅待機にすべきか?
- クラスが自宅待機となった場合、そのクラスの出欠はどのように処遇されるべきか?
- 教師が感染し出勤できなくなった場合の代理教員の給与は誰が負担するのか?
- 新しい(感染防止に役立つ)換気システムは施設されるのか?
- もし生徒・児童が昼食を教室で取ることになった場合、誰が監督すべきか?
- リモート教育を実施するにあたり、どのような教材や教師のトレーニングが提供されまるのか?
- 教員資格のない者がリモート教育を実施しても問題ないか?
- 教員はリモートと教室での指導の両方に従事する必要があるか?
- 校長は学校が再開される日がいつになるかを知ることはできるか?学校再開までに時間的猶予はあるか?
- 生徒・児童の心のケアを含めた学校再開に向けた準備へのガイダンスをいつ受け取ることができるか?
- 全学年一斉ではなく、学年ごとに再開時期をずらす、あるいは支援が必要な児童・生徒から再開するといった段階を取る学校はあるか?
- スクールバスに関してのガイダンスをいつ受け取ることができるか?
非常にアメリカ的な質問も含まれていますが、現場スタッフの、上部組織であるDOEに明確な指針やサポートを、実現可能なスケジュールで提供して欲しいとの思いは理解できます。上記のような質問・事態を想定したガイドラインの作成は必須でしょう。
段階的な学校再開を提案する折衷案も
また校長組合だけでなく、教員組合も学校運営上の安全と要望が認められないのであれば学校再開に反対するとの声明を出しています。学校再開への抵抗が大きくなってきていることを受け、デブラシオ市長も学校再開の最終決定は8月中旬まで行わないと言わざるを得ない状況となりました。市のオンブズマンからは、9月中はリモート教育を継続し、10月から、ウィルスを拡散しにくい10歳以下の児童から段階的に通学を開始する折衷案の提示がありました。
学校再開に向けた議論は混乱が続く
一方で、年内の再開は難しいとの意見もあり、秋の学期はリモート教育のみで実施すると発表している学校も出てきています。さらに新学期が始まっても、十分な数の教員を集めることができるのか不安視する声も聞かれており、ニューヨーク市の学校再開をめぐる議論は、まだまだ混乱が続きそうです。